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相談室便り心の相談室

抱える

先日、「夕凪の街 桜の国」という映画を観ました。同名のマンガを実写版にしたものです。
このお話は、二部構成になっています。前半は、広島で被爆した少女のその後の人生が描かれていて、後半は、その少女の死後50年目である今年、少女の弟の娘が少女の軌跡をたどっていきます。

映画の前半は、原爆投下から何年も経った広島が舞台です。主人公は被爆者である若い女性。彼女は、原爆投下による出来事を誰にも話すことなく、生き延び、仕事もしています。「なぜ誰もあの時のことを話さないのだろう」と思いながら。そして、あの時の情景がふっと浮かんできて、「私は幸せになってはいけないのだ」と思うのです。そんな彼女が、自分を好いてくれる男性と出会い、ある時、彼に「あの時のこと」を語り始めます。話の途中で男性は、「分かった。もうやめよう」と止めますが、彼女は話し続けます。「私は、生きていてええんやろうか」
彼女は、話し終え、翌日から寝込み、「力が入らんように」なり、ついには帰らぬ人となります。

子どもたちは、ちょっとした今日の出来事を、大人たちに話します。話したくて仕方がないのです。ちっちゃな出来事は、ちゃんと聞いてもらえたと子どもが感じ取れれば、それで十分であることもよくあります。「そうかー。それで?」とその続きを聞いてあげられるともっといいかもしれません。テレビのCMではありませんが、抱きしめてあげることで、子どもは、「一緒に抱えてもらえている」という感じを味わうこともあるかもしれません。

でも、話したいけれど話せない、そんな大きなものを抱えていると、それを話すのには勇気が要りますし、覚悟が要ります。映画の主人公が、原爆投下後に見たものを語ろうかどうしようかと、何度もためらったように。そして、抱えたものを降ろしっぱなしにしておくわけにもいかないのです。「あー、話してすっきりした」の隣には、「話してしまったらなんだか空っぽになってしまった」があったりするのです。

私たちは、そのことを気にかけながら、訪れる方のお話をお聴きしています。どうしたら、カウンセリングルームから出た後の現実の世界にちゃんと戻っていけるかということもとても大事なのです。

この映画の後半は、今年の夏の出来事という設定で、前半での出来事を知っている私たちが、その少女の弟の娘の目線で、「いま」という立場から、あの時のあの場所、あの人たちを追いかけていきます。観終わった直後は、前半に圧倒されて、後半はそんなにたいしたことなかったかなと思いました。しかし、少し時間が経つと、後半の大事さが分かってくるのです。ああやって今という視点から丁寧に見つめることで、あの戦争と今を繋げつつ、しっかりと現実世界へ着地することができるんだな、と。

心理面接もそうです。いろいろな出来事のあった過去にタイムスリップした後、丁寧に現実に戻ってくるという作業は大切なのです。こうやって、溢れ出る思いをおさめて、今日のこれからに思いを向けていくのです。

ちょっと一息つきに、〈こころのケア相談室〉にお越しになってみませんか。