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ストレスについてその1

1. 序章

 今の精神科は、社会がアメリカナイズされるに従い、様々な心の不健康状態が注目され病院の敷居がかなり低くなり、小児の自閉症、登校拒否、家庭内暴力、無気力症候群、ピーターパン症候群、燃え尽き症候群、キッチンドリンカー、単身赴任や窓際族やリストラに悩む会社員、嫁姑問題から夫婦間の問題まで幅広く対処しています。

最近では阪神淡路大震災で被害にあわれた方の精神療法の必要性をうたわれ、またペルー大使館占拠事件で日本人の人質だった人に対して橋本総理は精神科医師を派遣すると発表しました。

心の問題で身体の病気が出現する心身症、環境の変化により引き起こされる適応障害、なにかショックな事が引き金になり精神状態が不安定となる心因反応など様々な問題にストレスが大きく関わって来ます。

2. ストレスとは

ストレスとは、外部からの様々なストレッサーと言われる、心理的、感情的、環境的、物理的な物による負荷や刺激により引き起こされます。

例えば、あなたが、森林浴を楽しみながら、山歩きをしていたとします。気分は浮き浮き、何時お弁当を食べようかなと思った所で、突然大きな熊に遭遇してしまいました。

もうビックリです。死んだふりをした方が良いか。思い切って逃げ出す方が良いか瞬間的に様々な考えが浮かんできます。相手は自分を襲ってくるかもしれません。胸はドキドキして口から心臓が飛び出しそうになり、呼吸は荒く、手足は冷たく、瞳孔は散大し緊張が高まっています。これらの反応は、実は、緊急事態を体が自動的に察知し、いつでも戦いや逃げる事に対して身体を動かすのに都合がいいようにしているわけです。

3. ストレスと自律神経

器官別にみた自律神経の働き
交感神経
闘争あるいは逃走の体制
器官名 副交感神経
休養と栄養補給体制
拡大、突出 瞳孔と眼球 縮小、陥没
小量の濃い液 唾液腺 大量の薄い液
促進 心臓拍動 抑制
収縮 末梢血管 拡張
拡張 冠状動脈 収縮
上昇 血圧 低下
拡 張 気管支 収縮
嬬動抑制 消化管運動 蠕動促進
分泌減少 消化液 分泌増加
グリコーゲンの分解
(血糖上昇)
肝臓 グリコーゲンの合成
(血糖低下)
収縮(鳥肌) 皮膚(立毛筋) ( -)

つまり、交感神経の働きが活発になる事で、どうゆう相手かを目でしっかりと確かめます。逃げるのか、戦うのか様々な判断をしなければいけないために、脳神経は興奮し眠気はなくなります。又、機敏な反応や瞬発力を高めるために、筋肉が十分動ける様な状態にします。肝臓からグリコーゲンを分解し血糖値を上昇させる事で、脳と筋肉のエネルギーを供給します。呼吸は速く、かつ荒くなります。気管支が拡張する事で、多くの酸素を体内に取り込もうとします。身体の重要な臓器に血液を集中させるために、末梢血管は収縮します。つまり手足は冷たくなります。心臓はドキドキする事で、筋肉や脳に酸素や糖を、沢山送り込もうとします。

この緊急事態には関係がない消化器の機能は抑制されます。唾液、消化液は少なくなり、消化管の運動が押さえられる分けです。

逆に、リラックスした状態では副交感神経が優位となり、血圧が低下します。消化器の機能は活発となり、唾液は多く、胃の動きは活発になります。次の危機的な状態に備え、栄養を蓄えようとします。

この事は原始の時代より、人間が生き延びるために得た都合の良いシステムなのです。しかし、この身体の緊急状態は短時間しか持ちません。これが長く続と、当然体は消耗します。むりして早く動かしていた心臓に、心臓疾患を引き起こしたり、脳は興奮しているため、不眠症となったり、頭痛が出現したり、胃潰瘍や肩こりなど様々な不都合な状態が引き起こされます。

慣れない人が、多くの人前で、話をすると胸がドキドキして、頭が少しポーッとするのも交感神経が優位になるからです。しかし、それが終わるとそのドキドキは収まります。でも、このドキドキの状態が、家でゆっくりしている時に起こったり、また寒いのに身体がポッポと火照ったり、暑いのに身体がゾクゾクしたりする事がストレスでみられる場合があります。これは、身体がストレスにより緊急事態だと錯覚するため自律神経の調節障害が起きるからです。
これがストレスの問題点です。

4. 過剰ストレス

ストレスには良いストレスと悪いストレスがあります。
例えば、学校で遠足があるとします。ある子供は楽しみにして浮き浮きして、どんなお菓子を持っていこうか、誰と一緒にお弁当を食べようかと考え心待ちにします。これは適度なストレスで、心地よいストレスです。つまり良性ストレスと言えます。しかし、あまり興奮しすぎるとストレスが大きくなります。そのため、前の晩は全く眠れない状態になるかもしれません。これが過剰ストレスです。また、車酔いしやすい子供にとって、その遠足でバスを使うと知り、良性ストレスは悪性ストレスに変化します。その結果、心は拒否反応を示し、不安や抑うつ状態になったり、身体もストライキを起こすため、その朝,腹痛に襲われたりします。
しかし、人間にとってストレスが全くなかったり、少なすぎたりすると、体の緊張もなく、人の心と体を鈍らせ退化させます。定年で退職したら、仕事でのストレスや緊張から一気に解放されますが、趣味がなく仕事一筋で生活してきた人にとって、それは過少ストレスとなり、一気に老け込んでしまいます。また老人においては呆けやすかったりがあり有害です。
親を呆けさせないためには、適度な心配を掛けるのが親孝行なのかもしれません。これは冗談です。

5. ストレス初期症状

ストレス初期から出現する症状は次のものがあります。

  1. 目が疲れやすい
  2. 肩がこりやすい
  3. 背中や腰が痛くなる
  4. 朝、気持ち良く起きられないこと
  5. 頭がスッキリしない(頭が重い)
  6. たちくらみしそうになる
  7. 夢をよくみる
  8. 手、足が冷たくなることが多い
  9. 食べ物が胃にもたれることが多い

セリエによればストレスは身体や心の働きの中でも特にストレッサーの攻撃に弱い部分に現れ、機能障害を起こすと報告しています。その部分は一人一人違っており、循環器に問題を起こす人や、消化器に問題を起こす人、頭痛に悩まされる人等様々です。

6. 慢性ストレス状態

ストレス状態が持続し、それが慢性ストレス状態になってしまいますと、次の様になります。

  1. なかなか疲れがとれない
  2. 何かするとすぐ疲れる
  3. 腹がはったり痛んだり下痢や便秘がよくある
  4. 少しのことで腹がたったりイライラしそうになる
  5. ヒトとあうのがおっくうになった
  6. 仕事をする気が起こらない
  7. 口の中が荒れたりただれたりすることがよくある
  8. よく風邪をひくしなかなか治らない
  9. 舌が白くなることがある
  10. このごろ体重が減った
  11. 深夜に目がさめた後なかなか寝付けない
  12. 好きなものでもあまり食べる気がしない

この様に、更に症状も深刻となり、心や身体に問題が出現し、生活にも影響を及ぼすようになってきます。

7. 生活事象のストレス

生活事象のストレス度(Holmes)
順位 出来事 ストレス値 順位 出来事 ストレス値
1 配偶者の死 100 23 息子や娘が家を離れる 29
2 離婚 73 24 姻戚とのトラブル 29
3 夫婦別居生活 65 25 個人的な輝かしい成功 28
4 拘置・拘留・または刑務所入り 63 26 妻の就職や離婚 26
5 肉親の死 63 27 就学・卒業・退学 26
6 けがや病気 53 28 生活条件の変化 25
7 結婚 50 29 個人的な習慣の変更 24
8 解雇 47 30 姻戚とのトラブル 21
9 夫婦の和解調停 45 31 仕事時間や仕事条件の変化 20
10 退職 45 32 住居の変更 20
11 家族の病気 44 33 学校をかわる 20
12 妊娠 40 34 レクリエーションの変化 19
13 性的障害 39 35 教会活動の変化 19
14 新たな家族成員の増加 39 36 社会活動の変化 18
15 職業上の再適応 39 37 約1万ドル以下の抵当、借金 17
16 経済状態の変化 38 38 睡眠習慣の変化 16
17 親友の死 37 39 親戚づき合いの回数の変化 15
18 転職 36 40 食習慣の変化 15
19 配偶者との口論の回数の変化 35 41 休暇 13
20 約1万ドル以上の抵当、借金 31 42 クリスマス 12
21 担保、貸付け金の損失 30 43 ささいな違法行為 11
22 仕事上の責任の変化 29      
生活事象のストレス度(Holmes)
順位 出来事 ストレス値
1 配偶者の死 100
2 離婚 73
3 夫婦別居生活 65
4 拘置・拘留・または刑務所入り 63
5 肉親の死 63
6 けがや病気 53
7 結婚 50
8 解雇 47
9 夫婦の和解調停 45
10 退職 45
11 家族の病気 44
12 妊娠 40
13 性的障害 39
14 新たな家族成員の増加 39
15 職業上の再適応 39
16 経済状態の変化 38
17 親友の死 37
18 転職 36
19 配偶者との口論の回数の変化 35
20 約1万ドル以上の抵当、借金 31
21 担保、貸付け金の損失 30
22 仕事上の責任の変化 29
順位 出来事 ストレス値
23 息子や娘が家を離れる 29
24 姻戚とのトラブル 29
25 個人的な輝かしい成功 28
26 妻の就職や離婚 26
27 就学・卒業・退学 26
28 生活条件の変化 25
29 個人的な習慣の変更 24
30 姻戚とのトラブル 21
31 仕事時間や仕事条件の変化 20
32 住居の変更 20
33 学校をかわる 20
34 レクリエーションの変化 19
35 教会活動の変化 19
36 社会活動の変化 18
37 約1万ドル以下の抵当、借金 17
38 睡眠習慣の変化 16
39 親戚づき合いの回数の変化 15
40 食習慣の変化 15
41 休暇 13
42 クリスマス 12
43 ささいな違法行為 11

ホームズは、生活イベント上のストレスの度合いを次のように分類しています。人は生きていく上で、様々な避けることが困難な出来事があります。それらについて、ストレスを数値的に表現しています。数字が大きい程ストレスが高い事を意味しています。アメリカと日本とでは生活習慣が異なるため、そのまま活用は出来ませんが参考にして下さい。

アメリカでは配偶者の死を100として基準を定め、他の出来事と比較をしています。ここでは両親や子供の死よりも、配偶者の死や、夫婦の別居の方が、ストレス度が高いと見なしています。アメリカでは夫婦の絆が絶対であり、何処に行くにも夫婦一緒で、日本とは異なり、ビジネスマンが商談をまとめるためにクライアントをホームパーティに呼ぶそうです。妻の助けにより夫の仕事も左右されます。それらの点を考えると、何だか理解できるような気もしますが、やはり日本独自のスケールが必要に思われます。また、休暇やクリスマスが41,42に入っていますが、これは浮き浮きする事で過剰ストレスになるために、ここに入っているのだと思われます。

日本では、幾つかの機関でストレスの度合いについて考えられていますが、まだ統一されたスケールはありません。また、前述した様に、それぞれの出来事について、個人個人で、受け止め方、考え方が違う点も、生活上の出来事を、ストレスとして数値化しづらい理由だと思います。

8. ストレスチェック

ストレス度チェックです。どの程度自分がストレスがあるかをチェックしてみましょう。それでは自分に当てはまるものが幾つあるか、指折り数えてみて下さい。

  1. よくかぜをひくし、かぜが治りにくい。
  2. 手、足が冷たいことが多い。
  3. 手のひらや、わきの下に汗をかくことが多い。
  4. 急に息苦しくなることがある。
  5. 動悸が打つことがある。
  6. 胸が痛くなることがある。
  7. 頭がスッキリしない(頭が重い)。
  8. 眼がよく疲れる。
  9. 鼻づまりすることがある。
  10. めまいを感じることがある。
  11. 立ちくらみしそうになる。
  12. 耳なりがすることがある。
  13. 口のなかが荒れたり、ただれたりすることがよくある。
  14. のどが痛くなることが多い。
  15. 舌が白くなっていることがある。
  16. 好きなものでも食べる気がしない。
  17. いつも食べ物が胃にもたれるような気がする。
  18. 腹がはったり、痛んだり下痢や便秘をすることがよくある。
  19. 肩がこりやすい。
  20. 背中や腰が痛くなることがよくある。
  21. なかなか疲れがとれない。
  22. このごろ体重が減った。
  23. なにかするとすぐに疲れる。
  24. 気持ち良く起きられないことがよくある。
  25. 仕事をやる気が起こらない。
  26. 寝付きが悪い。
  27. 夢を見ることが多い。
  28. 夜中目が覚める。
  29. 人とつきあうのがおっくうになってきた。
  30. ちょっとしたことでも腹がたったり、イライラしそうになることが多い。
診断

9. ストレスの種類

人は生きていく上で、見たり、聞いたり、味わったり、臭ったり、肌で感じたり、心で感じたり、様々な出来事を経験したり、周囲の人や動物や物から受ける影響等、全ての事がストレスになり得ます。それらストレスの種類を、大きく次の5つに分類できます。

  1. 物理的ストレス(環境的ストレス)
    機械的な騒音、振動(電話の音、電車やトラックが通過する時の振動)、寒さ暑さ、煩雑なオフィス等外界から受けるストレス。
  2. 化学的ストレス
    コーヒー、お酒の飲み過ぎ、タバコの吸いすぎ、薬物、食品添加物等で身体が影響を受けるストレス
  3. 生物的ストレス
    細菌、ウイルス、カビ、花粉等、感染症やアレルギーの原因部質によるストレス。
  4. 社会的肉体的ストレス
    避けられない過密社会での生活や会社の歯車的役割(出張、通勤、接待)。政治経済問題、家庭内の問題(嫁姑問題、夫婦間係、子供の教育や進学、)老人問題等生活上のストレス。
  5. 心理的ストレス
    個人の性格や受け止め方の違いがあるが、仕事や生活上の出来事や人間関係における問題によるストレス。