秘密について
人は他者に言えない悩みや苦しみを持っています。あるいは、とても大事で大切なことであっても、他者にはなかなか語れないことだってあります。何となくぼんやりと感じてはいますが、はっきりとした言葉にならないこともあります。心の中にあるのだけれど、他者に明かすことのできないそうしたものごとを、私達は秘密と呼んだりします。他者の目に明らかにされないので、秘密にされているものは、まさしく心そのものと言えるでしょう。
心をケアする相談室を訪れる人達は、他者に自分の思いを言えずに困っている人が多いです。抱える問題が困難だったり深刻だったりするので、他者に言えないのです。
心の中にしまい込んでいる秘密には、大きく分けて以下の4つのものがあります。一つめは、「性に関すること」。セックスや性の好みをはじめとして身長や体重や容姿にいたるまで、実に幅広いものがあります。二つめは、「お金に関すること」。日常の生活費から給料や貯金や借金等。お金は、人間が社会で生きていくためには絶対に必要なものであり、非常に切実な問題でもあります。三つめは、「不正・不正直に関すること」。倫理的なことや道徳的なことにまつわるものが多いですが、軽はずみについてしまった嘘も悩みや苦しみにつながることがあります。自分の不正や不正直が問われるようなことは、人にはなかなか言えないものです。四つめは、「能力に関すること」。学力、体力、仕事力をはじめとして能力には様々ありますが、自分が能力不足だと思っていることと現実に求められる能力に差があればあるほど、それを隠さないといけないと思ってしまうものです。
鶴の恩返しという昔話をご存じでしょうか?自分を助けてくれた男の所へ、人間に化けて恩返しに行く鶴の話です。本当は自分が鶴だということを告げることができないで、鶴は男の嫁として秘密のまま暮らしていきます。しかし、最後に男は嫁が鶴だということを突然に知ってしまいます。それこそ、嫁との約束を破って嫁の秘密をこっそりのぞいてしまうのです。だからこそ、そこには破局が訪れてしまうのです。
秘密は、自分が納得した上で、ゆっくりと、相手の合意の下で、安心した状況や状態で明かされることが重要です。秘密を明かすということは、相手を信頼していること、忠誠をつくすことであり、二人で共有する秘密は、愛情や友情の証でもあります。そうした二人であるからこそ、大切な秘密を抱え込み、育み、秘密にまつわる問題を解決することが出来るようになるのです。
個人の心の成長にも、秘密は重要な役割を果たします。秘密を持っているからこそ、自分と他者を区別することが出来るのです。他者が知らないことを知っているのは自分だけだということです。あるいは、他者へ話すには忍びないという思いも、他者を尊重する態度だと思います。
子どもが親に秘密を持つようになったら、それは自立の始まりであり、社会への巣立ちです。何を親に伝え、何を伝えないでいるか、自分で決めていくからです。当然、伝えられないものは、親にとって秘密となりますが、子どもにとっては、糧となります。つまり、それを自分で解決しようとする課題としたり、友人や恋人をはじめとする家族以外の大切な人との信頼感の絆にすることができるのです。
秘密を他者と分かち合うこと、あるいは、秘密を自分の中で大切に保持し続けること。共に必要なことであり、心の成長と治癒につながるのです。