つながる
皆さんは「キャスト・アウェイ」という映画をご覧になったことがあるでしょうか。
名優トム・ハンクス演じる主人公が、突如起きた飛行機事故によって、無人島での生活を強いられるという物語です。確か、7~8年ほど前の映画で、私は劇場に見に行ったのですが、実は、個人的にはそれほどおもしろかった印象はありません。
ただ、強烈に印象に残っていることがあります。それは、主人公とともに無人島生活を送る友人“スポルディング”です。友人、と言っても人ではありません。バレーボールなのです。
主人公が無人島に漂着したとき、おそらく飛行機の荷物であろう残骸も同じように漂着していました。そのなかにあったバレーボールに主人公が自らの血で顔の絵を施し“スポルディング”と命名したのです(ちなみにスポルディングはバレーボールのメーカーですね)。
主人公は数年にわたる無人島での生活を友人スポルディングとともに乗り越えます。
この話から私はこんなことを感じました。
人は誰かとつながっていないと生きていけないのだ、と。
無人島での生活で生きていくために必要なのは「食べる」ことでしょう。しかし、それは「生物」として生きるために必要なことであり「人間」として生きるためにはそれだけでは十分ではないのではないかと思うのです。そして、そこに必要なのは「自分以外の存在とのつながり」なのではないかと。
「人間」は「人」の「間」でしか存在できないのです。
当院にいらっしゃる患者様にも誰にも言えない悩みを抱えていたり、相談できるような人が周りにいなかったり、忙しくて孤軍奮闘していたりとつながりの感覚が少し薄くなっているような方が多く見受けられます。
孤立、という感覚は人の精神状態に最も深刻なダメージを与えるもののひとつです。それは、ゆっくりと、静かに、しかし、深く、広く影響を与えていきます。
病院を受診する、ということは、ミクロな視点で見たときには、医者や看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などとの間に生じる個人同士のつながりもありますし、それらはマクロな視点で見たときには医療というシステムにつながることにもなります。そしてさらに、そのようなつながりは社会そのものにつながっていく礎となっていくのです。
つながりのなかで、あたらしいこころの流れを感じてみませんか?